先日、4歳と6歳の甥っ子が東京からやってきました
都会の子には過疎化した農村部は珍しいらしく小川でザリガニを取ったり山に入ってカブトムシを探したりと田舎を楽しんでいました
過疎化した村に久々に子供の声が聞こえ近隣の人も微笑ましく見ていました
子供の体力は無尽蔵でもう日が暮れようかという時間になってもまだ遊ぶまだ遊ぶとキリがありません
子供を預かってる私としては小川や溜池もあるので一瞬たりとも目を離せません
いい加減疲れてもう帰りたいのですが元気に遊び回っていのを見ると強くも言えず
ヘトヘトになりながらカブトムシを探していると夕方のサイレンが鳴り始めました
夕方6時を知らせるサイレンです
このサイレンは非常に独特のメロディで私も他で聞いたことはありません
なんとなく心地よく毎日畑仕事を終え疲れた体で聞くそのサイレンが好きでした
しかしそれを聞いた子供に異変が起こりました
目はうつろになりフラフラと山奥に入っていきます
あわてて「奥に入るんじゃない!」といいますが全く聞こえてないような印象です
小さな里山とはいえ迷えば大人でも出てこれません
私は子供たちに駆け寄り強引に腕を掴んで引っ張りました
しかし子供とは思えないような力で振りほどき山奥にどんどん入って行きます
その間いくら話しかけてもまったく上の空
甥っ子は二人いるので片方を止めても片方が進んでいきます
このまま山奥にすすめば足を踏み外して沢に落ちるか道を失って遭難するか
そうなるよりは殴ってでも止めたほうがいいと思い拳を握ったその時サイレンが止まりました
子供たちは突如我に戻ったように周りをキョロキョロと見回し状況が分かっていない様子でした
何があったのか聞くと「暖かくて甘かった」「ふわふわと気持ちよかった」と要領を得ません
二人と手をつなぎ山を降りようとした時あるものが目に付きました
そこにはランドセルと小さな運動靴が片方だけ転がっていました
そのクツを見て私は以前聞いた話を思い出したのです
戦時中この地域の子供が集団で行方不明になるという事件がありました
当時はこの村にもたくさんの子供がいて集団下校中に起こった出来事でした
警察や消防で大捜索が行われたものの足取りはまったくつかめず現代の神隠しだと話題にもなったようです
もしかするとあれは神隠しではなくサイレンに誘われどこかに消えたのではないでしょうか
昔ドイツのハーメルンという街で男の吹く笛の音色に誘われて多くの子供が行方不明になったという話があります
もしかすると子供だけが感じる音色があるのではないでしょうか
しかしそうだとするとあのサイレンは一体誰が何の為に流したのでしょうか
村の子供を減らして一体誰が得するというのでしょう
近隣の年寄りに聞いたものの昔からあのサイレンだから詳しい事は分からないとのこと
ただひとつだけ気になる話を聞きました
それはこんな話です
昔この村に一人の青年が住んでいました
その青年は才能豊かで音楽家になる事を夢を見ていたそうです
しかし両親は体調を崩していたうえに五人兄弟の長男だった彼は音楽家の道を諦めたそうです
それでも畑仕事や弟の面倒を見る傍らに時間を見つけては作曲活動をして休みの日には近隣の子供たちに当時珍しいピアノや歌を教えていました
ところが極一部の人たちは子供にピアノを教える事に否定的だったようです
時は太平洋戦争真っただ中 戦地で兵隊が命をかけているときに呑気に音楽などやっている場合か!
子供といえどお国の為に働け!教えるなら軍歌を教えろ!という訳です
当時は子供といえど貴重な労働力でした
青年は軍歌を教えることは頑として拒み子供達に童謡を歌わせモーツァルトを聞かせました
そしてある日事件が起こりました
青年が畑仕事を終えて家に帰るとピアノは粉々に破壊されコツコツと作曲した楽譜は灰になっていたのです・・
絶望した青年はそれ以来二度と音楽活動をしなくなり両親と同じく病に倒れ亡くなったそうです
サイレンが鳴り始めたのはちょうどその頃だったとか・・
青年はサイレンに怨みを込めたのでしょうか それとも子供たちを自由な世界に連れて行ったのでしょうか
どこか物悲しい音色は過疎化して子供がいなくなった村で今も時を刻んでいるのです
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